【前回の記事を読む】身体が小さく筋力もなさそうなのに、なぜか強いシュートを蹴れる選手…そのコツは、『足の甲のある1点にボールを当てること』
私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~
10メートルの壁
少し平行移動できないかと考える。鳥をイメージして、下腹にぐっと力をこめて下半身を上げて地面と平行に腕を振ってみた。だめだ、落ちていく。そうか、平行だからダメなのかもしれない。体は水平にしたままで、少し斜め上向きに腕を振ってみたらどうだろう。おっと今度は落ちていかないですうっと平行移動ができた。心の中でガッツポーズをする。
橋のほうに行ってみよう。多摩川に合流する幅30メートルほどの川にかかる橋まで移動する。いやはや腕も慣れてきたのか疲れないし、それほど強くかくことを意識しなくとも高度を維持できることがわかった。鳥の原理もそういうものなのかもしれない。時折吹く東風に流される。何度か押し戻されながらもようやく橋まで来た。
欄干から少しだけ身を乗り出すようにして、浅い川面をのぞき込む。昨日の朝、走った際に見かけた大きな鯉がそこにいた。地味な薄墨色の肢体は、月光を受けて黒光りしながらおおらかに水を叩いた。降りていって近くで見たかったが、橋の高さだけでもかなりあるのにこの高さから落ちたらひとたまりもない。
今日はあきらめて、もう少し高さを究めてみよう。鯉に気を取られて高度が下がっていたので、強めにかいて浮力を探した。すぐに体はふわりと反応して10メートルを超えて高くなった。と同時にさっきより強い風を感じて、流されそうになる。高度が上がれば上がるほど、遮るものがなくなるからだろう。
そうでなくても風は次第に勢いを増していた。東京湾に続く東の空も心持ち明るくなってきた気がする。今日はここまでにしておこう。私は丁寧に腕の力を緩めて地上に降りた。
あたかも自分が飛んでいることが現実なのだと証明したいといわんばかりに。
高く、長く飛びたい
私は飛べる。今の私にとって“飛ぶ”とは、倉庫の屋根から飛び降りることではない。鳥類と同じように地表から飛び立ち、地表に自由に降りられることだ。次の課題は何だ。そう、もっと高く、もっと長く飛ぶこと。それを自分でコントロールできる技術だ。
都会は特に建物や看板など障害物が多い。高層ビルによる風の影響も無視できない、いわゆる〝ビル風〟だ。また都会でなくても電線は至る所に張り巡らされている、下手に触れたらあの世行きだ。もっと上空に行けば建物や電線は気にならなくなるが、風の影響は比較にならないだろう。