【前回の記事を読む】ハサミの輪っかに指を入れるだけで嫌がった女の子…スタッフがそっと手を重ねると、ピクリともしなかった指に少しだけ力が入り……
第二章 熟慮の決断
遅いイヤイヤ期
両親の行動力に舌を巻く
面談に連れてこられた男児は、保育園の年中組にしては身長も高く体重も結構ありそうだった。
もうすぐ年長になるというが、小学生と言ってもいいような体格をしていた。男児を連れてきたのはお母さんだった。
男児は大人しく座っていて、席を立つ素振りも見せなかった。発語もなかった。
彼の生育環境を聞くと、言葉が出ないので保育園でいじめられている、とお母さんは言った。
いじめられてもやり返すことはできない。大声で泣き騒ぐこともなく、うっすら目に涙を浮かべる程度なので、保育士の先生にも気付かれないことも多いとも語った。
お母さんは園長先生や担任の先生に強く抗議をすることはできない、と苦笑いしていた。関係を悪くしてしまうことを恐れているようだった。
小学校に上がったばかりの姉も同じ保育園だったが、姉の方は健常児だったので保育園でも問題なく過ごせた。やはり言葉が出ないのが一番の問題だ、とお母さんは言った。
発語のない息子は大人しくしていて、自閉症を思わせるような特徴的な行動や仕草、こだわりはなかった。
彼は体格が良かったので、小学生用の学習机を使って療育をスタートした。彼は目の前に出される課題には集中し、長い時間、鉛筆を持っていられたので課題の習得は着々と進んだ。
こばとの定番、「絵とことばのカード」のマッチングができるようになると、「ひらがなカード」も音声対応で文字を識別することができた。発声練習も嫌がらなかった。拒絶はないので進み方は順調だった。
スタッフの口元を見て口形模倣もしっかりやり、声を出そうとした。出てきた声は不明瞭だが年齢の割に声変わりしたような低い声だった。