自転車に乗る練習もした。サドルに跨いでいられるようになったら、次は足をペダルに乗せたままにしている時間を長くする。

彼女の足は全く脱力したかのようにすぐにだらんとペダルから落ちる。最後の手段として、補助輪なし自転車のスタンドを立て、二人のスタッフが彼女の両側にしゃがんで彼女の足と乗せているペダルを一緒に持ち、「ぐるぐる」と声をかけながら三十回回した。

彼女にしてみれば足が勝手に動いているなぁ~、ぐらいの感覚だったかもしれない。

ペダルに足を乗せていることはできるようになった。しかしペダルの一回転がなかなかできない。

お母さんに言うと、「お家ではキックバイクに乗れます。下り坂は上手にバランスを崩さず乗れているので、自転車だって乗れるはずです」と反発するように言った。

健常児にとってはキックバイクから自転車への移行は抵抗なくできるだろう。しかし、自閉症児にとってはキックバイクと補助輪なしの自転車は別物だ。

脚をパーの字に開いたまま、あるいは地面を蹴っても乗れるキックバイクと、脚をぺダルに乗せて漕ぐ自転車は別物。体の動かし方が全く変わってしまうのだ。

水泳の練習で蹴伸(けの)びでは前に進めたのに、バタ足をした途端バランスを崩して沈んでしまうようなものだ。こばとではそのギャップをなくすために最初から補助輪などは付けない。

自分の体の感覚でバランスを取る練習のために、最初から補助輪なしの自転車で始めるのだ。