【前回の記事を読む】自販機にお金を入れ、飲みたいジュースのボタンに手を伸ばした彼…だが最後のボタンだけが押せず、先生の顔を見たまま固まってしまい……
第一章 生命力を支える家族
作り話
喋ると止まらない
一人息子を連れて、あるお母さんが療育の面談に来た。
彼女はシングルマザーだと言った。離婚ではなく、息子が二歳過ぎた時に死別した。
お母さんはキャリアウーマンで、今は両親と同居していると言った。
息子はせかせかと突っかかるような喋り方ではあったが言葉は年相応に出ていて、コミュニケーションは可能だった。
お母さんは息子がお喋り好きというより、余計な一言が多いと言った。そのため初孫なのに祖父とは折り合いが悪いと気まずそうに語った。
息子のおふざけ、言葉のからかいに対して祖父は優しい注意どころか本気の叱責、怒声をあげる。それが毎日のように繰り返されるのが悩みだ、とお母さんは深刻な表情をした。
保育園の先生から「落ち着きのなさが目立ち、軽い注意では制止が難しい」と言われたという。友達とのトラブルも多いと繰り返し指摘され、お母さんは精神的に追い詰められていると打ち明けた。
息子はまだ発達診断を受けていないが、「こばと」の評判を聞き、療育を受けさせたいと思って面談に来たと話した。
彼の療育は幼児学習教室からスタートした。彼の視覚認知は良かったが、視線をきょろきょろ動かし、一つの課題に集中が続かなかった。
しかし、苦手な課題でも彼はあからさまに拒否の言葉は言わない。意図してではないだろうが、世間話的なお喋りにすり替える。対面するスタッフはついつい彼の話に乗ってしまうのだ。
彼のお喋りはうまく、いかにも楽しそうに話し、相手に受けるとさらに話を盛るのでついつい乗ってしまう。彼の担当スタッフは彼の手に乗らないで、軽くかわしてすぐ課題に戻るように心掛けねばならなかった。
しかし彼には何となく憎めない、つい許してしまいたくなるような一面もあった。
お母さんは小学校入学前、公的機関で息子に発達検査を受けさせたが、ADHD(注意欠陥多動性障害)との診断だった。知的レベルは低かったと言う。