いきさつはこうだ。
トラドによると、草原ではオートバイが流行っていた。膝までの草原を走る。行ってみると、日本の中学生くらいだ。ガソリンがもったいないから、ゲルから遠くへは行かない。
中国製、125cc、普通のバイク。
三人でツーリングをしたい。ミランダもトラドも免許を取りに行くという。
イリの親分は新疆のイリ地方に住んでいたが、パキスタンの部族地域に出ずっぱりだ。
ベトナム戦争の大きな後方支援基地の倉庫の在庫品の中に、日本製オフロードバイクがあった。そういう站兵(へいたん)基地にあって撤退時の時限爆弾に爆破されずに残った品物の全てが部族地域に漂着していた。そう思っていい。
連絡がついてみると、二つ返事だった。お目当ての在庫はある。
「三台で二〇〇万円でどうだ」
話がまとまった。ミランダとトラドの親は金持ちだ。
あと決まっていない費用としては、部族地域からの運搬代、イリの親分名義でする正規の輸入手続きと新車登録費用。北京と上海にはありっこないので揃えば次のものも。
軍用ザック、軍用荷台バッグ。チューブ、パンク修理キット。工具、プラグ、電球。ツェルト、寝袋。ナイフ、斧、ノコギリ、コッヘル、水筒。米軍の野戦食(レーション)。ヘルメット、手袋、ブーツ。
防具に着られてしまってはツーリングが面白くない。からだが萎縮してしまうようになったらお終い。骨折したときには確かに困ったこともあったが、傷が治ってからもヘルメット、手袋、ブーツ以外の防具は使っていない。
普段着がいい。この点は大切だ。夢見が悪くなる。夢に単車を持ち込んで自在に遊ぶことができない。夢の利点はガソリンがいらない、谷底へのジャンプも可能、これさえあれば少しくらいなら空も飛べる。
携帯コンロもいらない。水筒の水で済ます。逆に焚き火のできる場所での野営は最高だ。
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