【前回記事を読む】1人45元。外国人相手の商売だから、目ん玉が飛び出るほど高い。さらに、バスの運転手には100元を握らせて…
二
すばしっこい草原のちっちゃな山羊は根っこまで引き抜いて食べた。真っ黒の角(つの)がすっと長く伸びて格好いい。
山羊一匹に羊五〇匹が一つのグループ。羊の方が本能的についていく。薄い氷なら山羊が草を引っこ抜くときに割れる。それだな。
「シベリアのトナカイはどうだ?」
雪の草原を前足で蹴って食べた。
大きな羊の群れが草を食んでいた。山羊を数えたら一〇匹。ならば羊五〇〇匹か。
インドでゼロが発見された。〇から九までのアラビア数字の組み合わせ、〇は読まない。代わりに十、百、千と読む。ゼロの概念を折り込んだこの呼び方が、数字を人類に解放した。正確にカウントできることの喜び。だけど掴みで何匹か見当がつけられることの方が実用的だ。
大きな起伏の緑の絨毯の上を最近ではモンゴル帝国の通行手形を持った早馬が駆け抜けた。要所要所に設けられた関所に用意された駿馬を取っ替え引っ替えの早駆け。
モンゴル草原のフフホトから中原の西安まで、寝台列車で移動した。
トラドとミランダとの三人旅。停車駅は八駅。深夜に延安駅を通る。
少し眠って、食堂車で朝の車窓の風景を見ながらコーヒーと固いおひねりパンとオムレツを食べた。乾燥していて土っぽくぼやっとしている。決して汚れた窓ガラスのせいではない。もうすぐ西安だ。
確かに三人は疲れてはいた。
フフホトで共通の友人の結婚式があって、その帰りだった。こっちの結婚式ってピーナッツの殻とか上海蟹の季節なら蟹の足とかの食べ物のかけらがフロアに落ちて足の踏み場もないんや。
皿の外はゴミ捨て場。口から直接落とす。汚いなあもう。気を付けて歩かないと滑った。ズボンの裾の汚れは諦める。
食べながらの大声の会話、笑い声。疲れるけど楽しい。みんなの胃袋の焼酎に火がついた。火焔が上がる。飲みすぎた。
西安ではトラドの友人の車で西安碑林と始皇帝兵馬俑坑を回った。
項羽と劉邦の鴻門酒宴 (こうもんしゅえん)遺跡には時間がない。緊迫の状況を現地で味わいたかった。残念。
劉邦の部下に項羽が生の豚の後ろ足を放り投げて、食えと言う。
「うまいか!」
「大好物だ!」
と食らいつく。ひどい下痢だけで済んだらいいが。
劉邦がトイレに託(かこつ)けて馬で逃げた。お土産の宝石をばら撒いて踏みにじる項羽。劉邦はヤクザの出、項羽は有名な武門の出、共に知将だったが、のちに項羽の方が殺された。
空港で食べた本場のジャージャー麺がおいしく、おかわりをした。昼にウルムチへ発つ。北京との時差二時間。夕暮れがそれだけ遅れる。
そこでは酒席で意気投合して友人になった同じ年格好のイリの親分が部族地域から運んできた日本製オフロードバイク(空冷四サイクル単気筒250ccエンジン)の新車が三台待っていた。それに乗り換えてフフホトまでの二〇〇〇キロを帰ってくる。