【前回記事を読む】郷に入っては郷に従えというけれど……中国・北京は汚さが尋常じゃない。路上に痰を吐くのは当たり前。

個室で中華テーブルを囲んで会食した四人のご婦人方が発病したというテレビニュースにはインパクトがあった。

一メートル間隔を開けること、これが新しいルールになる。そうしないと病気がうつる。

「フェイディエンだ」

バスに変な咳の客が乗り込んできたら、状況にもよるが大抵は急停車で全員が飛び出していく。

タクシーは窓全開で毎日の消毒済みのカードが掲示された。北京の春は寒いがそんなことは言ってられない。

七階の陽台から見下ろした住宅街から五人のフェイディエン患者が出た。二人が死亡。近隣住民には、隔離、外出禁止、弁当の配給等々の緊急措置が必要だとテレビがやったもんだから大変だ。

「北京の郊外に軍が隔離施設を造ったんですって、わたしたちそこへ連行されるのよ」

「まあ大変、そんなところに行ったらすぐにフェイディエンに感染してしまうわ」

「弁当の配給だって、どんなものを食べさせられるのやら」

おばちゃんたちは大騒ぎだ。

まあ、事なきを得た。裏門(うらもん)を使ったに違いない。有力者がこのマンションにいたんだ。彼が裏から手を回した。

売店へは専属の女性服務員が操作するエレベーターには乗らず、七階から一階まで階段を上り下りした。ビールの大瓶を引き取ってもらえる。

狭い空間だから彼女も必死だ。乗る方も気を使う。

北京にはたくさんのエレベーターがあった。昇降操作は多くの女性の大事な働き口だ。競争率は高い。休むわけにはいかない。

テレビはフェイディエンを担当する女性の看護師たちを共産党員にしたというニュースで持ちきり。普段では望むべくもない地位だという。経済的にも。羨ましくもあり、けなげでもあるという報道姿勢だった。病院の治療班が強力に立ち上がる。

ある日、朝晩流されていた満州国、ラストエンペラー溥儀(ふぎ)を主人公にした連続テレビドラマの再放送が終わって日本軍を茶化した反日娯楽映画に切り替わる。

テレビが通常運転になったからってまだ気は許せない。