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青山がバスを降りると小学校は目の前にあった。そのS小学校は高台にあり、古色蒼然とした校舎である。北側には新緑のクヌギ林が広がり、眼下は一面の田んぼとそれを包むように湾曲した川が流れ、点在する瓦屋根の家には気の早い鯉のぼりがはためいている。

運動場を取り囲むように植えられた桜の木々は蕾が膨らみ、一週間後には一斉に咲き出しそうな勢いである。校門をくぐり、誰もいない運動場を横切る。薪を背負って本を読む二宮尊徳像の脇を通って、築山の裏にある小学校の玄関に入った。「ごめんください」と二度ほど声を出すと、丸い眼鏡をかけた小柄な男が出てきた。

「青山先生ですね、ようこそお越しくださいました。遠路大変だったでしょう」

「初めまして、この度こちらの小学校でお世話になることになった青山純です」と頭を下げて挨拶した。

「わたしは教頭の桜井(さくらい)三郎(さぶろう)です。どうぞお上りください。靴はそのあたりの下駄箱に入れてください」と笑顔で云うと、薄汚れた茶色のスリッパを差し出した。

こちらへどうぞと云うので薄暗い廊下をついていくと、渡り廊下はスリッパに踏まれるとときどき軋むような音がする。案内された突き当たりにある職員室に入った。大部屋には向かい合わせの机が二列に並べられて、二人が机に向かって何やら書き物をしているだけで閑散としている。青山と教頭が入っていくと二人は同時に顔を上げた。

「まだ春休み中なので、ほとんどの先生はお休みされています。今日出勤されている、こ
の方は大崎(おおさき)辰之助(たつのすけ)先生です。そこに座っておられるのが菊池(きくち)喜一(きいち)先生です。こちらは先日お話しした、新任の青山先生です。このように若い先生が来られて、学校も若返ります。

青山先生はD町に来られたのが初めてとのことです。わからないことがあったら、こちらの先生方にお聞きになってください。お二人ともこの地域での教員歴は長いので、なんでもご存じです」

二人の教師には何も喋らせないで、教頭は自分の云いたいことを終えると、「それでは校長室にご案内しましょう」と青山を職員室から連れだした。二人の教師に挨拶することもできず、青山は黙って頭を下げるだけであった。このような教頭の行動に慣れているのか、二人の教師は苦笑顔で「よろしく」とだけ云った。

 

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