それから15分後、テレビが昼のニュースで伝え始め、字幕スーパーが流れた。
村上部長はどんな事件の時でもニコニコ顔であるが、今回は険しい表情であった。
「ところで、何か心当たりはあるのかね」
「病棟を出る時には、ご丁寧な挨拶をいただいたという報告がありましたし、多職種会議では在宅療養を希望されていましたが、思い詰めるようなことは全くありませんでした」
津島医師は感情を抑えた事務的な口調で言った。
「村上先生、誠にお騒がせして申し訳ありません」
「もう、診療に入りなさい」
村上部長に促されて、津島医師はナースステーションを出て行った。
(4)
渡瀬訓太郎の妻佳代は、実は推理小説の作家であり、コラムや随筆などでも知られている。もちろん、ペンネームで活動していた。今でも時々、原稿の依頼があり、固定ファンも多くいる。
多職種会議があった夜、在宅療養が認められなかったことに納得できなかった佳代は、自主的在宅療養のシナリオを書き上げた。転院すると見せかけて、行方をくらます作戦である。逃げ込むホテルはセキュリティーのしっかりしている最高級ランクを選択し、次のような指示項目を書き並べた。
〈2泊3日、部屋は最上階コネクティングルーム、窓が娘令子の住むスイスの方角に向いていること、フリージアの花を飾ること、スイスの風景写真を壁に飾ること、看護師は朝9時に到着して事前準備をすること、医師の往診があること、前日に届く荷物を朝までに部屋に入れておくこと、
1つのベッドに失禁対策の防水シーツを敷くこと、空気清浄器を用意すること、パソコンのプロジェクターを用意すること、食事は室内に配膳すること、3日間掃除は必要ないこと、宿泊の問い合わせには一切応対しないこと、車椅子とシャワーチェアーとポータブルトイレを用意すること〉
看護師の派遣会社には次の条件をメールで送った。
〈身長は160センチ前後、体型は標準、40才代から50才代、髪型はショートカットで丸顔、3日間24時間拘束可能なこと、場所はホテル、急性期から看取りまでの経験が豊富なこと、センスがあり感性豊かなこと、妻佳代の指示に従順に従うこと、無口で優しいこと、賃金は相談に応じること〉
翌日、すぐに応募があり、佳代は派遣会社の面談室を借りた。佳代には、書き上げたシナリオを確実に成功させるためのアシスタントが必要だった。
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