【前回の記事を読む】80代の妻が電話で『夫を入院させないことにしました』…病院が理由を聞くと、「あっ」携帯を落とした音が聞こえ、音信不通に。

第1話 尊厳死協会会員 渡瀬訓太郎物語

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「村上部長、今いいですか。朝10時に病棟を出て国分寺地域病院に転院した患者が行方不明になりました。先方には到着せず、家族にも運転手にも連絡がつかないのです。警察に捜索願を出しますか」

「なんだと! 交通事故か?」

「交通事故ならそろそろ連絡が入る頃です。奥様から転院先の病院に急に入院しないことになったと連絡があったそうです」

「すぐそちらに行く」

村上部長は慌てて副院長と事務局長にも一報を入れ、急いで医局を出た。

津島医師は、外国に娘がいることを記憶の隅から引き出していた。

「確かお嬢さんがいたよな」

「はい、スイスで医師と結婚して看護師をしています。スイス在住、国際電話番号はこちらです」

「スイスは今何時だ」

と言いながら、津島医師は電話をかけた。

「東京の流星中央医療センターの医師津島です。渡瀬訓太郎様のお嬢さんでいらっしゃいますか?」

「はい、父がお世話になっております。何かございましたか?」「本日、当院を退院して国分寺地域病院へ転院なさったのですが、30分で到着するところ、病棟を出て1時間30分にもなるのですが、行方不明になっているのです」

「えっ、何ですって」

「リフトタクシーごとお父様とお母様に連絡がつかなくなっているのです。お母様が転院先の病院に、入院しませんと電話を入れたようですが、それ以後連絡が取れないのです。交通事故の報告もありません。只今、捜索中です。

連絡が入り次第、ご報告を差し上げますので待機をお願いします。もし、お母様と連絡がつきましたら、ご一報いただけると助かります。警察に捜索願を出すことになってもよろしいでしょうか?」

「捜索願はお願いします。連絡をお待ちしております」

津島医師が電話を切ると同時に、村上部長がナースステーションに飛び込んで来て、金剛看護師長からあらましの事情を聞いて言った。

「津島先生、早い対応ありがとう。渡瀬さんは退院手続きを取っているので、病院の管理下ではなくなっているんだね。

そして、国分寺地域病院の入院手続きを取っていないので、先方の管理下でもないということになる。

責任という点ではくぐり抜けているのでほっとした。主たる責任はリフトタクシー会社になる。もし、娘さんの了解があれば警察に捜索願を出すべきじゃないかと幹部と話をした。娘さんはどんな様子だ?」

「捜索願の件は了解されています」

「えっ、もう了解を取ったの? 手回しが早いね」

村上部長が府中警察に電話をすることになり、テレビとラジオで緊急ニュースの依頼と、検問体制の依頼をした。