【前回の記事を読む】ワクチン接種直後から急変し、診断はアナフィラキシーショックだった…治療により改善したが、認知力が低下してしまい…

第1話 尊厳死協会会員 渡瀬訓太郎物語

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「ケアマネですが、在宅療養の準備はできています。施設も選択肢に入っていますので奥様に情報提供はしています。しかし、施設は現在、希望されるところは待機になります」

津島医師は、必要な情報が揃ったところで、検討に入った。「まず、食事は経口摂取だけでは栄養不足になりますし、今後、改善の見込みも厳しいため、経管栄養について奥様に相談したところ、渡瀬さんの強い意思で経管栄養はしないことにしました。

中心静脈も希望されません。よって、食べられる時の経口摂取と末梢点滴のみにて水分を賄っています。次に、渡瀬さんと奥様には自宅で療養したいという強い希望があります。

しかし、看護の評価は、高齢の奥様には食事介助、排泄介助、口腔ケア、清潔ケア、車椅子への移乗、急変時の対応などは厳しいということです。

よって、安全・安心の在宅療養を準備するのは困難で、総合的に判断して療養型病院が最適という結論になるのですが、他のご意見はありますか」

訓太郎の妻佳代は、会議の雰囲気に圧倒されていたが、訓太郎の意思は伝えねばと手を挙げた。

「主人が最後を自宅で過ごしたいと申しますので、介護機器も揃えました。私ができないところは介護保険でサポートしていただき、何とか自宅退院できないでしょうか?」

退院支援の菅井看護師が毅然とした口調で話し始めた。

「奥様が倒れたらどうするのですか。在宅療養といっても、ただ、寝かせておくだけでなく、いろいろなケアを覚えなくてはならないのですよ。

点滴もあるし、熱を出したり、急に具合が悪くなったりした時に、奥様はちゃんとできるのですか? 在宅療養においても病院と同じ、安全で安心のケアを続けなくてはならないのですよ。

総合的に考えて、奥様のために病院での療養をお勧めしているのです。その方が訓太郎さんも安全で安心ですよ。私ならそうします。そうですよね、ケアマネさん」

分からず屋の子供を諭す話し方である。『あなたは素人だから分からないので、専門家の私が教えているのです』という態度である。病院スタッフには、患者や家族を説得する使命があるようだ。ケアマネが口を開いた。

「私は、今日の会議の結論に対応させていただきます。この会議で在宅療養と決まれば準備可能ですので、お手伝いさせていただきます」野際理学療法士が思いつめたように手を挙げた。

「渡瀬さんのご希望である在宅療養は、奥様の負担が大きいということは分かりました。しかし、渡瀬さんの希望を実現させるとしたら、どのような準備が必要で、それが地域との連携で実現可能かどうかの検討をすることが、このような会議の役割ではないでしょうか。

もし、奥様が介護することが困難であれば、介護保険で支援可能かどうかを検討することが、患者の意思を尊重するという、患者中心の医療ではないでしょうか」