その意見に対して、金剛看護師長が強い口調で答えた。

「嚥下障害のある患者の食事介助は、誤嚥や窒息のリスクがあるので、家族による介助は病棟で認めていません。ここは急性期病院です。

在宅療養の準備をするなら包括ケア病棟のある病院でしていただけば良いことです。急性期病院からの在宅療養は、家族に十分な介護力がある場合に限られています」

ケアマネがすまなそうに、小声で呟くように話し始めた。

「私共は病院から自宅退院でお願いしますと言われれば、何とかします。急げば 3日、大体1週間で準備できます。しかしご家族が在宅を希望されても、病院から依頼されなければ準備はできません」

「これは会議ではない」佳代があきらめるように、囁き声で言った。

「もう結構です」

野際は、渡瀬の余命については把握していた。野際は、渡瀬の最期は自宅でという願いを検討することが『この会議の使命』と考えていた。

「渡瀬さんの思いを受け入れて、3日間の準備期間で自宅退院させることはできませんか?」

すると、金剛看護師長は会議を締めくくるように高圧的な話し方をした。

「私たちはこうして多くの職種が集まって、渡瀬さんの最も安全・安心な療養を検討しているのです。個人的な感情で意見を出すのはやめてください! 津島先生、あらゆる視点から総合的に検討して、最適な方針を提示してください!」

津島医師がまとめた。

「在宅療養でなく、転院の方針にします。医療相談の高松さん。お願いします」「はい、4件ほど病院を当たっています。国分寺地域病院はほぼ2週間の待機です」

水上看護師は「転院の方針で進めます。お疲れ様でした」と会議を閉じた。

 

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