「ダメよ。英君、大手会社の部長さんかもしれないけど今まで何年もの間、高級マンション住まいで高級車乗って散々贅沢三昧の生活をしてきたでしょ。当初、結婚する気は全くなかったみたいだから貯金も計画的にしていないでしょ。当分の間、老後のことも考えて貯蓄は必要だし家は建てません」

「あのー……瞳ちゃん……貯金は十分あるよ……」

英介はまいったという顔をしながらも瞳が結構しっかり者で一生懸命話しているところが可愛いなぁと思い瞳の言うことを聞いていた。

「それから家事のことだけど最初から飛ばし頑張って結婚生活をしてしまうとバテてしまうし、それが原因で夫婦喧嘩が耐えなくなり、よくある価値観の違いとかで離婚なんかになったら大変だから当分の間はうちのママにお願いしようかと思ってる。

あっ、言ってなかったかな? うちのママ料理研究家で家で仕事しながら主婦してるの。だから両親も近くにいるから安心でしょ。……もちろん私も仕事しながらママに料理・洗濯・掃除と徐々に教わっていこうと思ってる。というかすでに喜んでOKもらっているんだけど」

「えっ、もう俺の話してるんだ……」

瞳はニコニコしていた。

ということで二人は夜八時を回った頃、成城の瞳の家の前まで来ていた。

大きな門の前で、瞳がインターホンを押すと、カチッと音がしてオートロックが解除された。開けられた門をくぐると手入れの行き届いた日本庭園が広がっていた。長い石畳をしばらく歩くと、堂々とした木造二階建ての家が見えてきた。玄関まで進み、どこから見ても高級そうな木製の引き戸を、瞳は静かに引いた。

「瞳ちゃーんお帰りなさーい。パパと待ってたわよ。彼氏も一緒ね」

家の奥の方から女性と思われる人の声がして来た。

そしてスタスタスタ、スリッパが床をする音が近づいてきた。

スリッパの音が止まると同時にその女性と英介の第一声が重なった。

「……風間先輩じゃないですか」

「えっ、坂居?」

実に英介の目の前に現れた女性は、旧姓、坂居という高校の後輩だった。しかし、今は結婚して姓も変わった瞳の母親、であった。

「えっ、瞳ちゃんの彼氏って風間先輩?」

瞳は何が起きたのか読み込めていない。

「おい、どうしたんだよ騒がしいなぁー」

またまた奥の方から男性らしき人の声がしてスタスタやって来た。