【前回記事を読む】「じょっぱり」「もっこす」に並ぶ日本三大頑固「いごっそう」は、高知県の男性の気質を表す言葉。個人の性格を超えて…

第一幕 邂逅

一九五八年七月

「これ、飲んだらえい。熱いから火傷をせんようにな」

老医師は大きな湯飲みを差し出した。

「何ですか?これは」

「煎じ薬じゃ。『清暑益気湯(せいしょえっきとう)』という漢方薬よ。おまんは今、汗をじっとりとかいて、脈がやや浮いて弱く、舌には僅かに黄苔(おうたい)。顔色もすぐれん。暑さと湿度にやられかけておる。まあ簡単に言えば軽い暑気当たりのような状態よ。飲んでおけば快復も早いき」

「はい」

頷いて上体を起こし、熱い湯飲みを両手で受け取った哲也は、ふうふうと吹きながら漢方薬に口をつけた。

「飲めそうかのぉ」

「はい。意外と抵抗ありません。すごく懐かしい味。体がすっきりする感じです」

老医師は嬉しそうに微笑んだ。

「それならええわ。身体の状態にぴったり合った漢方薬は、少々苦くても、抵抗なく飲めるきね」

懐かしい訛りのある老医師の言葉に、湯飲みを口に当てたままで頷きながら哲也は周囲に目を遣った。

「しかし、おまんはどうしてあんな所に倒れちょったがかねぇ。あの沈下橋は昨日まで通行止めよ。水嵩が増して沈んじょった。流されたらそれっきりやぞ」

哲也は何とも答えようがなく、黙り込む。

「それにしても智志に似いちゅうのぉ。とても他人には思えんき」