第一幕 邂逅
行政の河川用語では「潜水橋 (せんすいきょう)」が公式名称であるその橋を、土佐の高知では「沈下橋(ちんかばし)」と呼ぶ。
沈下橋は、各県で呼称は異なり、潜り橋、地獄橋、冠水橋 (かんすいきょう)などとも呼ばれ、古くからわが国の河川に架けられており、その数は全国で四百を超える。
高知県では特に多く、無名の橋も含めると六十を超える沈下橋が存在する。その床板は河川敷の土地と同じほどの高さとなっていて、水面からも近い。
台風や大雨など河川の増水時には水面下に沈んでしまうが、欄干もなくシンプルな造作のため、流されることはなく、水嵩が下がれば再び姿を現す。
一切の無駄を省き生活道路としての橋に徹した沈下橋は、土佐の風景に融け込み、美しく、どこか懐かしい。
初めてその姿を目にし、橋を渡ろうとすると、川に吸い込まれてしまいそうな気がして少し足がすくむが、一度渡ってしまえば、川や周りの自然との親和性の高いその姿にすっかり魅了されてしまう。
高知県の仁淀川(によどがわ)に架かる浅尾(あそお)沈下橋は、そばかすの少女がインターネット仮想世界で活躍する人気アニメ映画では、主人公が通学路に利用する橋として登場し、仁淀川の深いブルーとともに「聖地」として知られるようになり、訪れる人も多い。
その流域の集落では、水が引き、再び姿を現した沈下橋の上では、昔別れた人と再びめぐり合うことができるという言い伝えも知られている。