彼はしばらく考えていたが、私の気掛かりに応えた。

ゆっくりと穏やかな口調で腫瘍ができたと一言で答えた。

それも信頼があったからであろう。取り乱すこともなく、心静かにそれは穏やかな表情だった。

「黙っていてごめん。中々言い出せなくて」

と真摯に謝ってくれた。私はすぐに言葉が見つからず、頭の中が真っ白になったが、不思議と病状の詳細なイメージが脳裏に観えた。

MRI画像を目の前に見ている様で、頼んでもいないのに丁寧に解説付きだった。放心状態の私を見てさぞかし心配になったと思う。

それから必死になって、何か言っているが、彼の声が全く聞こない。私はただ一点を見つめ、今にも溢れそうな涙を堪えるのに必死だった。

肩を小刻みに震わせているが、照史は抱き寄せられない。

最近わかったのか聞くと、照史からしばらく連絡が途絶えた頃、ちょうど台湾へ出張に行った前後だったと言った。いつもお世話になっているかかりつけ医に行き、そこで詳しい検査を勧められた様だ。

私も付き添うから検査を受けようと、ついにポロポロ涙をこぼしてしまった。

照史は私の手をぎゅっと握っている。嗚咽しながら声を絞り出すように、何回も、検査、検査と懇願した。

しかし彼は検査しないときっぱり言った。自分の使命を受け入れたから。

「私の意見はどうでもいいの?」

沸々と怒りを覚えて急に立ち上がった。目をぎゅっと瞑り彼の手を振り払い深呼吸をした。

抑えきれない怒りと悲しみ、よってその場にいられなくなり私は突然走り出した。

「春ちゃん! 待って」

という呼びかけに振り返りもせず風を切りながら、とにかく逃げるように走り続けた。

試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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