第一部

一 出会い

伯父の葬儀の日、伯母や親戚達はすすり泣いているのに、私は悲しめないでいた。突然の訃報に、伯母も心の準備がなっておらず、それもそのはず五十三歳で亡くなるなんて早すぎる。良い部下にも恵まれて仕事も順調、家庭円満、順風満帆だった。

立派な祭壇があり、亡骸が安置されているのだが、私には本人が棺の隣に、仁王立ちでまじまじと、他界した己の姿を見つめているかの様に観えている。

「あーあ、やっぱり」

人生という名の使命が終わり、なくなるのは肉体だけ。人は魂となって永遠に生き続ける。霊魂が見えてしまうのだから仕方ないと、その場の空気に耐えられず外に出た。

重い空を仰ぐと蒸気の様な風が生暖かく、ぬるっと、身体をすり抜け、実母の形見であるマラカイトのネックレスが風に揺れた。

来週は雨になるみたいですね、と背後からの突然の声かけに振り向くと、端正な顔立ちをした青年がいた。私は人見知りのせいで、無愛想で表情が凍りついていたのだろう。驚かせてすみません、と謝罪を受け一瞬間が空き、青年がばつが悪そうに頭を下げた。

越前部長の身内なのかと聞かれ、養女の越前春子だと答えた。私は幼い頃、両親を亡くし、実父の兄である伯父に引き取られ育てられた。

青年は直属の部下の片瀬照史(あきと)だと言った。息子の様に可愛がってくれ有難かったと、感謝の言葉を口にしている。とても恩義を感じているようだった。

「恩返しをする間も無く、本当に残念です」

お手本のような礼儀正しい反応に、私は困惑してしまった。何故なら伯父が生きている様に見えているから。

それで思わず、「全然悲しくないです」と答えてしまった。大変驚いた様子で、まるで異質な物を見たような反応だ。

そこで誤解されてはと、まだ実感がないから、どう反応するのが正解なのか、わからないと伝えた。それを聞き腑に落ちたのか、「大好きな人が亡くなったのだから、すぐには受け入れられないことですよ」。