その日、終業時刻になり、私が一目散に帰宅しようと廊下に出ると、向井とすれ違った。

「お疲れ様です。お先に失礼いたします」

ビジネスライクに一礼し「やあ、お疲れ様」と背後から声を聞いていた。

私はとにかく足早にクリニックを後にした。向井は明らかに避けられていると感じたようだ。目もくれない態度に、その時は背中を物寂しく見送るしか、すべがなかったと後から聞いた。

待ち合せ場所で、照史の姿を見付けると駆け寄った。カフェからコーヒーを手に出てきた所だ。笑顔で私を迎えてその様子は普段と変わらない。

高層ビル群とあおい芝のコントラストが好きだ。園内を少し歩き、石の階段に腰をかけお互い少し沈黙した。

私は照史の横顔を見つめているうちに、あの違和感のことを聞かずにはいられなくなった。

「照史くん体調悪いでしょう? 実は身体が透けて輪郭がはっきりみえなかったの」

不安と恐れ、色々な感情が散乱し口から心臓が飛び出そうだったが見て見ぬ振りはできない。