【前回の記事を読む】「邪神を退治せよ」と告げた帝釈天。どんな手段で倒せばいいか尋ねた所、1200年要すると、歳月の話で返されて唖然としていると…
第二章 天部の将軍、帝釈天と合心した空海の歩み
空海は山を尾根伝いに歩いていた。傍らにはひとりの女がいる。名を雀(すず)といった。
雀と出会ったのは、千手大社を背負った旅に出て五日目のことだった。南紀のある里で神仏の教えを伝えるべく真言念誦(しんごんねんじゅ)を繰り返していた空海は、救いを求める人が絶えぬことに驚きを隠せなかった。民衆は貧しく学もなく、絶望の際にあった。希望の光を求めて喘いでいる姿に、空海は心を痛めた。
空海は真言を唱え、光の民の説法を伝えた。一人ひとりの心に神仏が宿るよう、全精力を傾けた。そうして民衆が散り散りになった頃、ひとりの女が不意に現れた。襤褸(ぼろ)をまとってこそいるが、意思の強さを感じさせる澄んだ瞳が美しかった。
「どうされましたか」
空海が声をかけた。空腹に耐えられず物乞いをする者はけっして少なくない。女もそのひとりなのだろうと考えた。
「私は雀と申します。空海さまの説法にいたく感銘を受けました。よろしければ、旅のお供をさせていただけないでしょうか」
「むう、お供ですか」
空海が戸惑っていると、心の裡から声が聞こえてきた。
『空海よ。その女こそ、我が話した弁財天の転生した姿じゃ。転生すると神としての力は半減するが、そなたにとって大いなる支えとなるに違いない。ともに旅をするのじゃ』
声の主は間違いなく帝釈天であった。空海はすべてを悟った。
「あなたは弁財天さまですね」