「合心した帝釈天さまが教えたのでしょうか」
「左様でございます」
「いかにも、私は弁財天の転生した姿です。天界にいたときほどの力は使えませんが、邪を滅するお力になりとう存じます」
「楽な道のりではございませんが、ぜひとも弁財天さまのお力をお貸しください。ともに参りましょう」
「この世において、私の名は雀です。どうか雀とお呼びください」
「それは失礼いたしました。これからは雀さまとお呼びします」
「雀さまではどうも収まりが悪い。私は空海さまのお供なので、雀、でお願いいたします」
「承知いたしました」空海は決まりが悪く、頭をかいた。
「空海さま、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」
「何なりと」
「空海さまはこの旅を、どのような思いで歩まれているのでしょうか」
「答えになるかどうか……」と前置きしたうえで、空海は話し始めた。
「私はこれまで、いずれこの世を去るのであれば、今生(こんじょう)のうちに正しき世が訪れる瞬間を目に焼きつけたいと思っていました。しかし、帝釈天さまのお言葉を聞き、深く考えさせられました。千二百年後のために自身のすべてを投げ打つことが、何につながろうかと。そこで私の脳裏をよぎったのは、利他という言葉でした」
「利他、ですか」
「正しき世が訪れる瞬間をこの目で見たいという思いは断ちがたいものがあります。この欲望を抑制することなく、千二百年後となる彼方の時代に人々が救済される姿を想像し、利他の心を育てようと思うのです。小欲と大欲の狭間を行き来し、揺れ続けることで、自身の心にある仏性を掘り起こしてみたいのです」
こうして話しているとき、帝釈天の言葉は聞こえず、また存在も感じられなかった。
空海自身の思いがそのまま言葉として響きを持った。
「帝釈天さまが空海さまを見込まれた理由がわかりました」
雀はそういって破顔した。