アラーム音。
新キャラの彼のベッドだった。
血圧が急降下。
病室の空気が一瞬で変わる。
看護師が集まる。医師が走る。カーテンが閉まる。
さっきまで話していた相手が、急に“患者”になる。
これが病棟だ。日常と非日常が、カーテン一枚だ。
私はその音を聞きながら思った。
ここは回復の場所だけど、同時に綱渡りの場所でもある。
1時間後、彼は戻ってきた。
「すみません、お騒がせしました」
「ライブ演出すごかったです」
「笑えません」
「戻ってきたから言えます」
彼は小さく笑った。
それで十分だった。
夜、パルス終了。
達成感より、消耗感だった。
だが主治医は言った。
「ここからが本番です」
まだ前座だったらしい。
私は思った。闘病はマラソンだと聞いていたが、どうやら障害物競走も混ざっている。
第五部:数字という名のジェットコースター
ステロイドパルスが終わった翌朝、病室は妙に静かだった。
祭りの後の感じに似ている。あれだけ体内で騒いでいた薬の波が、一段落したせいだろう。
だが静かなのは気分だけで、管理項目は増えていた。
血圧、血糖、尿量、体重、むくみチェック。
私はもはや人間というより、歩くグラフだった。
「今日から内服に切り替えます」
主治医が言った。
「飲むステロイドですか」
「はい」
「ラスボスが中ボスになる感じですね」
「長期戦モードです」
錠剤の数を見て笑った。
「サプリメント愛好家みたいですね」
「効果はだいぶ違います」
知っている。
朝の薬タイムは、ちょっとしたイベントだ。
看護師がトレーを持ってくる。
小さなカップに色とりどりの錠剤。
「これは?」
「胃薬」
「これは?」
「感染予防」
「これは?」
「主役」
白くて大きい。
「ラスボス顔してますね」
「言われます」
もう言われ慣れているらしい。
次回更新は6月1日(月)、16時30分の予定です。
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