【前回の記事を読む】「俺は3回撃たれてる」同じ病室に入院している“村長”は武勇伝を話し始めたが、彼のある言葉が妙に残り…

第三部:診断という名前のスタートライン

待ち時間は拷問に近い。

私は売店に行く許可をもらった。検査後の安静期間が終わり、行動制限が少し緩んでいた。

病院の売店は不思議な場所だ。入院患者にとってはテーマパークに近い。歩いて行ける“外界”だからだ。

カゴを持つだけで自由を感じる。

だが腎臓食の制限が頭をよぎる。

成分表示を見るクセがついた。

「塩分0.3g……勝ち」

小さなヨーグルトを手に取る。こんなことで達成感があるのは、入院生活ならではだ。

レジの人が言った。

「お大事に」

普通の言葉なのに、ちょっと効いた。

昼を少し過ぎたころようやく呼ばれた。

診察室の椅子に座る。母も来ていた。呼んでいないのに来るところが母だった。

「結果、出ました」

医師は端的だった。

「IgA腎症です」

初めて聞く人には暗号みたいな病名だ。私は事前検索で知ってしまっていた。

「やっぱり」

声が勝手に出た。

「予想してましたか」

「少し」

「進行度は中等度」

「中くらい、ってことですか」

「放置はできない、という意味です」

医療用語はいつも遠回しだ。

説明が続く。

自己免疫、慢性炎症、糸球体障害、蛋白尿、血尿。

難しい言葉が並ぶ。

「治りますか?」

私は聞いた。

母が横で息を止めたのが分かった。

「完治という言葉は使いません」

やはり、そう来た。

難病ということは知っていたが、予想通り完治はない。

「寛解は目指せます」

「寛解」

「症状が落ち着いた状態」

ゼロではなく、静かにする方向だ。

「治療します」

断定だった。

「ステロイドを使います」

来た。自分でも知ってる強いやつだ。