【前回の記事を読む】「腎臓の組織を少し取ります」背中にチクッと針がさされ麻酔が打たれたと思ったら、「バチン」と銃みたいな音が…
第二部:針は静かに刺さる
母が来た。
「どうだった?」
「撃たれた」
「大げさ」
「音がね」
「結果は?」
「まだ」
「待つ時間が1番長いのよね」
介護職の人間は、言葉が現実的だ。
夕方、病棟の空気が変わる時間がある。
日中の検査ラッシュが終わり、夜勤体制に切り替わる前の静かな時間帯。私はこの時間がわりと好きになっていた。
“村長”が話しかけてきた。
「撃たれたか」
「表現が物騒ですね」
「俺は3回撃たれてる」
「ベテランですね」
「スタンプカード作ってほしい」
笑った。
「何の病気なんですか」
「慢性腎炎。長い付き合いだ」
「怖くないですか?」
「最初だけ」
「慣れるものですか?」
「慣れるというか、共存だな」
その言葉が、妙に残った。
夜。若い研修医が来た。
「少しお話いいですか?」
嫌な予感しかしない前置きだった。
「血液データ、少し気になる動きしてます」
「悪い方向ですか?」
「横ばいから、やや悪化」
「“やや”って便利ですね」
「便利です」
彼は否定しなかった。
「透析の準備だけ、説明させてください」
来た。ついに来た。
説明は丁寧だった。だが内容は重かった。
カテーテル、シャント、血液浄化。
週3回。
未来の予定表が、急にモノクロになった気がした。
「決定ではありません」
「でも可能性は高い」
「ゼロではない、よりは高いです」
正直な医者だった。
研修医が帰った後、しばらく動けなかった。
点滴スタンドを見つめる。
透明な液体が、静かに落ちていく。
まるで時間みたいだった。