スマホを開く。母からメッセージ。
【どう?】
――まだ、機械につながるかもしれないって話。
既読がすぐ付いた。
【つながっても生きてる人、山ほど見てきた】
強い。
怖いのは治療じゃない。放置。
返信できなかった。
正論は、時々まぶしすぎる。
消灯後。
病棟は暗いのに、完全には静かにならない。どこかでアラームが鳴る。どこかで足音がする。誰かが咳をする。
“むくみ村”は眠らない。
私はイヤホンで環境音を流した。雨の音。なぜか落ち着く。
その時、背中に鈍い痛みが走った。
生検の場所だ。
じわっと広がる。
ああ、本当に取ったんだな、と思った。
検査は終わった。
だが、診断はまだ先だ。
そして診断が出ても、終わりではない。
そこが入口になる可能性が高い。
私は初めてはっきり自覚した。
これでは終わらない。
第三部:診断という名前のスタートライン
結果が出るまで、3日かかると言われた。
3日。
入院生活における3日は長い。外の3日とは別の単位で動いている。ここでは時間は“点滴袋何本分”で数える。
1日目はまだ気が張っていた。
2日目は慣れ始める。
3日目は余計なことを考え出す。
私は見事にその通りの経過をたどった。
病棟には独特のリズムがある。
6時、起床の気配。
7時、検温ラッシュ。
8時、朝食と薬。
9時、回診前のざわつき。
10時、検査呼び出しのアナウンス。
健康な時には気づかない世界の時間割だ。
「はい、体温」
看護師が体温計を差し出す。
「毎日測ってますけど、急に平熱にはならないですよね」
「記録は裏切らないので」
「人は裏切りますけどね」
「朝から深いですね」
入院すると、どうでもいい会話の質が少し上がる。逃げ場がないからだと思う。
食事制限も始まった。