減塩、低たんぱく、カリウム制限。
つまり、味がしない。
「これは何味ですか?」
「“優しさ”です」
配膳の人がそう言った。
うまいこと言うな、と思ったが、せめて醤油は欲しかった。
同室の“村長”は慣れていた。
「3日で舌が再起動する」
「そんな便利機能あります?」
「ある。人間は適応の生き物」
確かに、昨日よりは文句が減っている自分がいた。怖い順応力だ。
2日目の午後、新キャラが入ってきた。20代後半くらいの男性。
スーツ姿のままベッドに案内されていた。明らかに予定外入院の顔だ。
「今日、検査で来ただけなんですけど」
看護師に言っている。
「皆さんそう言います」
テンプレ回答だった。
彼は点滴をつながれ、天井を見て固まった。
私は少し前の自分を見ている気分になった。
「何でですか?」
彼が小声で聞いてきた。
「腎臓です」
「同じです」
「ここ、むくみ村って呼ばれてます」
「嫌な村ですね」
「でも住民はわりと優しい」
村長が親指を立てた。
3日目の朝。
主治医の回診がいつもより遅かった。
この“遅い”は嫌なサインだと、2日で学習していた。忙しいか、話が長くなるかのどちらかだ。
「今日、結果出ます」
医師が言った。
ついに来た。
心拍数が上がるのが分かる。
「午後、説明します」
「午前じゃなくて?」
「病理の最終確認が午後」
もったいぶるタイプの展開だった。
次回更新は5月18日(月)、16時30分の予定です。