「副作用、ありますよね」
「あります」
否定しないタイプの医師だった。
「でも、効果も強い」
トレードオフ。
「どれくらい?」
「しっかり」
便利ワードだ。
「ムーンフェイスとか」
「出る人は出ます」
「出ない人は?」
「出ません」
当たり前だが、賭けだった。
母が質問モードに入った。職業病だ。
「投与量は?」
「パルスから入ります」
「期間は?」
「反応を見て」
「腎機能の回復見込みは?」
「現時点では五分五分」
会話の速度が速い。私は観客だった。
「透析は?」
「今は回避ライン」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
説明が終わったあと、母が言った。
「ほら、原因分かった」
「嬉しくはない」
「でも、戦える」
それは事実だった。
正体不明の敵より、名前がある敵の方が戦略が立てられる。
「長期戦ね」
「みたい」
「じゃあ、途中で笑うポイント作らないと」
「何それ」
「介護も闘病も、笑いがないと折れる」
経験者の言葉は、軽いのに重い。病室に戻ると、村長が聞いた。
「どうだった?」
「名前ついた」
「それは大事」
「IgA腎症」
「ここ多い」
「名産地みたいに言わないでください」
「ステロイド?」
「はい」
「顔丸くなるぞ」
「先輩面しないでください」
笑った。
少しだけ、怖さが減った。少しだけ、覚悟が増えた。
夕方、最初の大量ステロイド点滴の説明が来た。
「3日間、強いの入れます」
「イベント感ありますね」
「わりとあります」
「副作用は?」
「眠れません」
「もう眠れてません」
「じゃあ一緒です」
違うと思う。
夜。私はメモ帳を開いた。