【闘病記録をつける】

そう書いた。

理由は2つ。

1つは、自分のため。

1つは、誰かのため。

未来の患者が検索した時、恐怖だけじゃなく“現場の空気”も伝わればいいと思った。

病人の孤独は残酷だから。

私はこの時まだ知らなかった。

この記録が、思ったより長く、思ったより濃く、思ったより人間くさくなることを。

第四部:ステロイド祭り、開幕

「今日から本番です」

朝の回診で主治医が言った。

本番、という言葉は普通わくわくする時に使うものだが、点滴スタンドが隣にあると意味が変わる。

「ステロイドパルス、開始します」

パルス。

名前だけ聞くと音楽フェスみたいだが、中身は強力な薬の集中投与である。3日間、どかんと入れる。

「先生、副作用もう一回聞いていいですか」

「代表的なのは眠れない、食欲増える、血糖上がる、気分がハイになる」

「だいたい全部嫌ですね」

「正直でよろしい」

医師は否定しなかった。

点滴は透明だった。見た目が普通すぎる。

もっとラスボス感のある色をしていてほしい。心の準備ができるからだ。

「入れていきますね」

看護師が言う。

「これ、効いてる感じって分かります?」

「分かる人は分かるし、分からない人は全然」

「占いみたいですね」

開始から10分。

分かった。なんか、体の中が騒がしい。

熱っぽいような、軽く興奮しているような、エナジードリンクを点滴された感じだ。

「これか」

「来ました?」

「来ました」

「早いタイプですね」

当たりたくない“早いタイプ”だった。

昼前から、やたら喋りたくなった。

村長に話しかける。

「今なら3時間講演できます」

「薬だな」

「止まらないです」

「みんな通る道」

「通販番組の司会できそうです」

「買わされる方になるなよ」

ツッコミのキレが良かった。

次回更新は5月25日(月)、16時30分の予定です。

 

👉『治すより、付き合う』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「凄いイケメンくんだ…ちょっと想像以上だわ」肩から少しずつ脱がされ、身体を重ねるような密着マッサージがはじまり…

【注目記事】「僕を焦らして苦しめるのは君くらいだよ」ブラウスのボタンを外しはじめ、腰が砕けそうになる。まだ会社なのに…