巡査長は自分の机の上のファイルをめくると、メモ用紙に書きこみ始めた。そしてメモ用紙を俺に渡すと
「これでいいですか?」
との声に俺は
「仕事が早くて助かります! 早速行ってきますよ!」
その場を立ち去ろうとするも、巡査長が俺の背中に向けて声をかけてきた。
「小林さん! 女の子達には私から連絡しておきます。コワイおじさんが話を聞きに行くからと。あなたに睨みつけられたら女の子はショック死するかもしれないので」
俺は振り返り
「俺と話す前に、『ショック死しないように心臓叩いておいて』と伝えておいて下さい」
とだけ返した。俺は事務室を出ると
「さて……女の子達に聞き取りに行く前に、鑑識にも行かないとな……」
俺は憂鬱な気分で2階に上がっていった。
毎度の事ながら、この部屋に来るのは気分が乗らない。技術や科学……化学等の進歩は凄まじく、それまで自白重視の捜査を一変させたのが『鑑識』だ。
こいつらは現場に入り指紋だけではなく髪の毛一本、一滴の血液や体液等、旧時代には見向きもされず信用もされなかった物に『証拠』としての価値を与え、容疑者を追い詰める切り札にしてくれた。切れ者のイメージがある連中ではあるが、ここの課長の性格は時として、苛立ちさえ覚える。その性格は城東警察署の鑑識課の課長だけであってほしいと思う。
俺はノックをし、ドアを開けた。部外者が入って来たにも関わらず、この課のやつらはパソコンのモニターを見入っていた。俺はため息をつくと声をかけた。
「松下課長はご在室ですか?」
「…………」
確かに聞こえる声で尋ねたはずだ。なのにこいつらは……無視を決め込んでいた。俺はもう一度、さっきよりも大きな声で
「松下課長は?」
と再び尋ねた。そこで初めて鑑識課員はモニターから顔を上げた。課員の1人が
「課長……課長! あの男が呼んでますよ!」
鑑識課員は俺に負けないくらいの声で鑑識課長を呼んだ。間髪入れずに奥の部屋から整った顔立ちの女性が顔を出した。女性は
「あんた達、声がでかい! さっきから聞こえてるよ!」
『それならさっさと顔を見せてくれればいいのに……』
俺は心の中で毒づいた。鑑識課長はビニール手袋を脱ぎながらこちらに歩いて来た。そして俺の前まで来ると
「……あたしを口説きに来たの?」
俺は呆れた。この城東警察署にはこういう女性(ひと)しかいないのか? 俺は言葉を返す。
「そのセリフ……今日2回目ですよ!」
鑑識課長は
「冗談だよ。本気にしてどうするんだ」
次回更新は6月1日(月)、16時30分の予定です。
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