【前回記事を読む】優しく知的な顔をした女医はしっかりと目を見て体全体をチェックした。検査すると言って鼻孔に綿棒のようなものを入れ…
2 スウェーデン・ストックホルム
部屋に入り驚いた、窓がない。寝るだけの小さいベッド、そして周りは天井までレンガ。まさに独房のイメージだ。よくもまあ無駄なく泊まるだけの部屋として工夫されている。とにかく横になることができるだけでありがたいと思った。
じっと休養するにはいい環境かもしれない。換気がよいのか息苦しさはない。キツい、熱が下がればなんとかなる。解熱剤を飲むだけで気休めになる。
5月22日は高熱で何もできず、ただベッドに横たわるだけの一日。
二日後の5月23日には熱が下がった。回復を願ってじっと体を休めた。
その翌日、歓喜の朝となった! ホテルの「独房」の中でも頭が今までになくすっきりした! 体温の変化が安定してきた。
午前8時、ビルギットの娘さんがホテルまで来てくれることになっていた。ホテルの入り口に出て、娘さんの到着を7時過ぎからホテルの入り口で待った。通勤時間帯のホテル近辺の人の動きを見ることになった。ガッシリしまったそれぞれの玄関から通勤に急ぐ人、犬の散歩に出かける人が現れた。
静かな「観光」といったところか。静止して景色、人の動き表情を見る! これもおもしろい。
石畳のきれいな歩道を足繁く行き交う人たち。大きな清掃車が音を立ててゴミの回収をしている。遠くにこちらに近づいてくる女性の姿があった。ビルギットの娘さんとの対面だ!
SMSだけのやりとりでビルギット本人とお会いできなくて娘さんが来てくれたのだ! ビルギットに似ている小柄な女性だった。ビルギットのメールで「People says that Ewa-Marie is my little sister.」とあった意味がわかった。確かに親子だけれど、ビルギットに瓜二つのように似ていた。
顕治は、自分の書籍を間接的にでもビルギットにお渡しするという目標を達成できて満足だった。時間ごとに気分もよくなり、これから先の旅程を考える意欲も出てきた。
ストックホルムでは動き回るつもりができなかった。最後せめてもの観光として、ストックホルム自然史博物館を訪問した。
この間、チピタのことが頭から離れなかった。コロナに顕治が感染したと診断された場にチピタはいたのだ。顕治はチピタに連絡することをためらった。連絡しても通じなくなるのでは。
自分にとってますます離れがたいチピタを感ずるが、チピタにとって顕治に何の魅力を感じるのだろうか。チピタがコロナに感染している可能性もある。
どちらにせよ、連絡して次の旅程に進む前に再会できるなら再会したい。
「チピタ、お陰様で僕は回復して気持ちのよい朝を迎えています。一番つらいときにあなたがいてくれ、そして医者との対応もしてくれて本当にありがとう。できたらお会いしてこれからの旅についてお話ししたい! 連絡ください」
どんな返事が来るのか、来ないのか。チピタからの反応は速かった。
「回復してよかったわね! おめでとう。是非お会いしたい。場所と時間を指定してください」
顕治は本当にありがたく思った。こんな自分との再会にも、チピタは躊躇もなかった。