「いいかげんにしなさい、ピッポ …… じゃなかった、醸くん」
言われた犬は、ただきょとんとこちらを見るばかり。
そしてまたピューピュー音を楽しむようにかじり始めた。ただ、時々こちらの様子をうかがうようにちらりちらりと目線を投げてくる。
ピューピュー鳴る玩具で遊んで、どこが悪いんだ。買ってきたのはそっちじゃないか。
何で僕が怒られなくちゃいけないんだ …… と考えているらしい。
口止め料の次は、このうるさい遊びをやめさせる魔法の言葉しかない。
「醸くん、ごはんよ」
ソーセージ・ドッグ
ヨーロッパ人の観光客が、醸(ジョウ)を見て、ダックスフントは“Sausage Dog”と呼ばれていると言った。胴長の体つきは、まさにソーセージを思わせる。ドイツ原産なので、ドイツ語の発音で “Dachshund”はダックスフンドではなく、フントとなる。英語の“Hound”猟犬の語源と同じである。
アナグマを追う猟犬として改良されて、こんなに長い胴体と短い足になってしまった。 しかし、猟犬だけあって運動するのが大好きで持久力もあり、見た目以上に歩くのも速かった。散歩に連れ歩くとき、醸は飛び跳ねるようにして歩いた。
東京へも連れて行った。片道三時間のドライブはさすがに緊張したようで、その日の夜は死んだようにぐっすりと寝た。
翌日、東京の町を散歩した。
ちょこまかと、あるいはぴょんぴょんと、必死に短足を動かしてついてくる。田舎の散歩道と違って車の往来が多く、車線の多い幅広い道を渡るときは歩道橋を上り下りする。
何度か歩道橋を渡るうちに、突然動かなくなった。
「橋を上るのは、イヤだ」
必死の顔で訴えてくる。