「どうやらもう全てを把握しているようだな。話が早い。そのスーツはどこで手に入れたんだ?」
「ああ、これですか?」
青竜は自分の服に眼を落として言った。
「便利な時代ですね。欲しいものは何でもポチればすぐ手に入る」
人を食ったような答えに鷹山は引き攣った笑みを浮かべた。
「全てを把握しているのなら、細かい説明は不要だろう。
我々神撰は来る7月5日に今の国家を転覆し、新しい時代を創ろうとしている。もうすぐこの国は我々のものだ。おまえは将来、私の後継者としてこの国を治めることになる。
だが、そのためには今、上にいる河原賽子が邪魔になる。彼女は強力な超能力者(サイキック)だ。奴を倒せるのはおまえしかいない。どうだ、やってくれるな」
青竜は小馬鹿にしたような眼で鷹山の顔をしばらく眺めてから言った。
「人間というものは実に面白いですな」
鷹山は出鼻をくじかれ、怪訝な表情となった。
「どういうことだ?」
「だってそうじゃありませんか。親というものは自分の子供にあれこれ命令したがる。親心というものでしょうかね。だが、子供が十分成長した後はその必要はないはずです。
親心以外で命令するのならば、それは産んでやったことや、育ててやったことの代償を要求しているのと同じですから。
つまりは取引ということですが、この場合、私は何を得るのでしょう?」
「だから言っているではないか。おまえは私の跡取りとしてこの国を支配するのだ」
鷹山がむきになって反論すると、青竜は深い溜息をついたが、顔を上げて向き直った時、その瞳の奥に潜む底知れぬ憎悪に鷹山は身震いした。
「何故、私がおまえのような老いぼれの『跡』を継がなければいけないのだ? 確かに私には悠久の時間が残されており、一方でおまえのは短い。
だからと言っておまえが死ぬまで私は愚劣な王の臣下としてかしずく屈辱に耐え、あくびが出るような退屈に我慢しなければいけないのか? たとえ鼠が獅子を産んだとしても、鼠には獅子に子として忠孝を尽くすよう望むことは許されないのだ」
今や、鷹山は全てを失った一老人に過ぎなかった。彼は目に涙を浮かべ、口をもごもごさせた。
「じゃあ、おまえは一体何をしようというんだね?」
次回更新は5月30日(土)、21時の予定です。
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