「篠原、さん?」

あずみの顔を見て確かにそう言った。名前を覚えてくれていたのだ。

「はい、劉さん。わたし、篠原です」

ぎこちなくあずみも挨拶する。はじめて言葉を交わしたのでないだろうか?

挨拶くらいはしたことはあるが、名前を名乗り合ったことはない。

「篠原あずみさん、知っています」

劉さんがうなずいた。あずみは驚いた。フルネームで覚えられていたのだ。

「彼女も一緒に劉さんと話がしたいんです。いいですか?」

劉さんはまた静かにうなずいた。

「あの……劉さん、前に一人暮らしだっておっしゃっていましたよね?」

真琴はさっそく本題に入る。

真琴は劉さんが年上だと知っていて、敬語を崩さない。距離感の取り方はさすがだ。

相手の立場を瞬時に理解して、相手と接する。今から社会人になってもやっていけるのではないだろうか? 

小さな頃からパーティーなど公の場に出席することが多かった真琴ならではの強みだった。

「はい。そうです」

劉さんが一人暮らしだという質問にうなずいて答えた。

「じゃあ、お食事は? 自炊をされているんですか?」

劉さんは真琴の質問の意図を測りかねている様子だった。

「自炊、します」

しばらく間があって、劉さんが答えた。

「そうですか!」

真琴がその答えを聞いて、嬉しそうな笑顔を見せた。

「それなら……」

真琴が身を乗り出した。

「実は、劉さんにお願いがあるんです!」

手を合わせて真琴がお願いのポーズをとる。

「お願い?」

「水餃子のですね、作り方を教えてほしいんです」

「水餃子?」

劉さんが首をかしげたまま聞き返した。

 

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