【前回記事を読む】出勤前に急いで支度していると、リビングから母が「鍵がないの」…苛立ちを抑えられず、「どうして覚えられないの」と言うと…
第五章 葛藤と後悔
帰宅すると、母はいつも通りテレビを見ていた。私の顔を見ると、少し不安そうな表情を浮かべた。
「お帰りなさい。お仕事、大丈夫だった?」
「うん、何とかね」
私は母の隣に座った。
「お母さん、今朝は本当にごめん」
「もういいわよ、気にしないで」
「気にするよ。ひどいこと言ったもん」
母は首を横に振った。
「恵美が大変なのはわかってるわ。仕事しながら、私の面倒も見て。疲れるのは当たり前よ」
「でも、それとこれとは別でしょ。病気のせいで忘れちゃうのは、お母さんが悪いわけじゃないのに」
「でもね、恵美」
母は私の手を取った。
「私も、あなたに迷惑かけてるのは事実よ。それは認めないと」
「迷惑なんかじゃ……」
「いいの。事実は事実として受け止めないと。でもね、私が言いたいのは、それでも恵美には感謝してるってこと。こうして一緒にいてくれて、面倒を見てくれて。本当にありがたいと思ってるの」
母の目には涙が浮かんでいた。
「だから、たまにイライラするのは仕方ないわ。人間なんだもの。完璧な介護者なんていないのよ」
「お母さん……」
「ただね、怒った後に、こうやって謝ってくれるでしょう。それが嬉しいの。私のことを大切に思ってくれてるんだなって、わかるから」
私は母を抱きしめた。
「お母さん、大好きだよ」
「私もよ、恵美」