孝蔵は、もう一度深々と煙草を吸った。

「私はこの年になっても、経済新聞を毎日読んで切り抜きをしたりしている。セミナーやフォーラムがあれば参加して、いつ会社から相談されてもアドバイスできる用意をしているつもりだ。

会社から相談されることは二度とないとわかってはいても、そう続けていたいのだ。ところで、経験や英知は顔に出るということを知っているかね」

「聞いたことはあります」

「君も写真家なら人の表情を見るだろうからわかるはずだ。人間は油断すれば表情が緩む。常に緊張し、高く意識を保てばそれなりに凛々しい顔を維持することができると私は考えている。どう思うかね」

「斎藤さんのおっしゃる通りかもしれません。表情が緩むというよりは、和やかな表情になると言ったほうが適切な気もしますが」

「ほう。和やかな表情か。そういう言い方もあるかな。でも私は、最後まできちんとしていたいと考えたのだよ」

「つまり、凛々しい顔でいたいと……」

「まあ、そういうことかな。なぜ、毎年写真を撮るかという君の質問の答えはそこにあるのだよ」

「毎年写真を撮ることで、ご自分の意識を高めようということですか」

「そういうことだ。もしも私が死んだときにこの写真が遺影に使われれば、私は永遠にこの状態でいられる。最後の最後まで自分を磨こうとしていたことを残したいと考えている」

 

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”遺影撮影”から帰宅した夫が、まるで別人のようだった……これまで気にも留めなかった妻の体調を気遣い始め、その違和感は拭えず……

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