そして、もう一口コーヒーを啜ってから続けた。
「君は、何歳になるのかな」
「32になりました」
「そうか。まあ、人生これからだな。君は自分自身、何歳まで生きられると思う?」
「え、あまり考えたことがないですね。まあ、80歳くらいまで生きれば御(おん)の字かな」
亮介は、言ってしまってからハッとした。
「すみません。失礼しました」
孝蔵は、「ははは」と笑う。
「いいんだよ。君の年齢くらいなら、そんなところだろう。私も70で会社を退くまでは自分の死なんて考えたこともなかった。でもね。会社を辞めて人生の目標を失うとどうなると思う?」
亮介は、いろいろと考えを巡らせたが、今度は失礼にあたらないように言葉を選びながら慎重に答えた。
「仕事以外の趣味や家族のことを生きがいにされるとか、ですか」
「なるほど。それもそうだがね。70を過ぎれば子供たちもいい大人だし、趣味を始めるにしても人生の目標にするほど熱は入らないものだよ」
「なるほど」
孝蔵がコーヒーを飲み干したので、亮介はお代わりを勧め、ポットを取ってカップに注いだ。
「ああ、ありがとう」とコーヒーを受け取り、孝蔵は続けた。
「最後に考えるのは、自分の死についてだった」
孝蔵は、会社を勇退したときのことを思い出していた。
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商社で長らく活躍し、取締役だった男は70歳で勇退。だが社内報では雑に小さく扱われた……その直後、脳卒中で妻が倒れ……
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