「5年になります。私に変わってからも斎藤さんは毎年来ていただいています。ありがとうございます」

「私のほうはもう何年になるかな、毎年写真を撮るようになってから」

「昨日、斎藤さんの記録を調べたんですが、来年で10年になりますよ」

孝蔵は煙草の火を丁寧に消すと、ようやく吸い殻を灰皿に入れた。

吸い終わるまで一度も指から煙草を離すことはなかった。そしてコーヒーを一口啜った。

「そうだったな。70のときに毎年写真を撮ることに決めたんだ」

亮介は、顔色をうかがいながら孝蔵に尋ねた。

「差し支えなければ、なぜ毎年写真をお撮りになるのか教えていただけないですか。私からすれば斎藤さんはありがたいお客様ですが、どうしてなんだろうといつも思っていたんです」

孝蔵は「ああ」と天井を仰ぐと、楽しげな顔をして亮介を見つめ直した。

「不思議かな。毎年写真を撮りに来る老人が」

店の中はジャズが流れている。音は小さくしてあるが、孝蔵が黙り込むのと対照的に音がせり上がったように感じた。しばらく孝蔵は考え込んでいるようだった。

「あ、すいません。余計なことでした。お気に障られたならお詫びします」

亮介がその様子を見て慌てて言うと、孝蔵は思い出したように笑顔を見せていった。

「あ、いや。申し訳ない。少し考え込んでいたんでね。怒ったわけではないので気にしないでほしい」