【前回の記事を読む】長年の取引先に新人が「それって馴れ合いですよね。」…「入社したばかりで何がわかるの?」と叱ると…
訳アリな私でも、愛してくれますか
土曜日。くるみは待ち合わせ場所に来て、あたりを見渡す。まだ笹川は来ていないようだ。いつも先に待っていてくれるから、妙な感じがする。
(どうしよう、いつも以上に緊張する……)
今日のくるみは、先日告げられた笹川の気持ちに対して、答えを伝えるつもりでいた。
緊張のせいで早く来すぎただけだというのは承知している。今日は笹川の家に呼ばれているのだ。
「くるみさん、お早いですね。お待たせしました」
「いえ、こちらこそ早く来すぎちゃいました」
「では、まず食材から買いに行きましょうか」
今日は一緒にお昼ごはんを作る予定だ。先日一緒に屋内ランチをした際のことを笹川が覚えていて、誘ってくれたのだ。
「この近くにスーパーがあるので、そこにしましょうか。何か作りたいものはありますか?」
「私はグラタンが好きなんですけど……」
「いいですね、ではグラタンにしましょう。あとはいくつか副菜をつけて……」
楽しそうな笹川の横顔を盗み見る。人生で最悪の日を迎えた数日後に、こんなふうに笑っていられるのはこの人のおかげだと思う。そして、好きだとも。
「少し遅めのランチになってしまいますが、大丈夫ですか?」
「はい、全然大丈夫です!」
笹川はくるみに歩調を合わせてくれる。2人はそのまま、近くのスーパーマーケットへと移った。
スーパーマーケットへ来ると、笹川がカゴを持ってくれ、一緒に店内を巡る。
「グラタンだったら、まずはホワイトソースとマカロニと……」
「あと、鶏肉と、ブロッコリーが入ってるやつが好きです」
「あ、いいですね。ではブロッコリーも入れましょう」
笹川の隣を歩きながら、見る世界は幸せな光景だと思う。周囲から見たら、カップルだと思われるだろう。それがなんだか面映ゆくて、くるみが1人で想像を巡らせていた瞬間。
『火災が起きました。避難してください。火災が起きました。避難してください』
大きな警報音とともに、店内放送が流れた。急な出来事に、くるみはびくりと肩を震わせて笹川を見た。すると目があった瞬間。
「逃げましょう」
笹川がくるみの手を取り、出口の方へと早足で向かう。周囲の人達はみんな、大きく動じている様子はなかった。
買い物客たちは口々に『どうせ誤報だよね』『よく小学校の頃も鳴ってた』と話している。そんな中を、笹川に連れられて早足で去るのは周囲の人達の視線を感じて、少し恥ずかしいように思えた。
「あの、笹川さん! これ、誤報なんじゃ……」
「今はとにかく、この店を出ましょう」
店の出口にカゴを置き、スーパーを出る。それから少し離れたところまで歩いて、ようやく笹川が歩みを止めた。
「くるみさんに、伝えておきたいことがあります。僕は、大切な人ができたらこの話をしようと思っていました」
「なん、ですか……?」
「あれが誤報であれそうじゃないであれ、くるみさんは必ず逃げるという手段をとって欲しいんです」
「え……」