千春は言ってから、少しきつくなってしまったと反省した。しかし、一度出てしまった言葉は撤回できない。
「とにかく、この見積もりは預かっておくから。検討します」
「よろしくお願いします」
礼は小さく頭を下げて、そのまま自分のデスクに戻って行った。
(最近の子はドライっていうか、なんていうか……)
彼が人間関係をうまくやれるタイプではないと思っていたが、あまりにも自分と考え方が違いすぎて、千春は小さくため息をついた。
結局、その日はそれ以上喋らないまま、仕事を終えた。
しかしその夜、京弥のバーに向かうと先にいた礼が何食わぬ顔で待っていた。
「遅かったですね。何か手伝えることありました?」
「何、してるの……」
会社であんな言い合いをしたのに、礼は何も気に留めていない様子だった。
「ここはプライベートだから、そうやって何事もなかったような顔でいられるの?」
「そうですね」
昼間あれから話もしていないのに、何もなかったかのような顔でお酒を飲めるほど千春は割り切れる性格ではない。
「ごめん、私はそうやって分けられない。今日はお酒飲む気分じゃなくなったから」
千春はそう言って踵を返し、バーを飛び出した。エレベーターを待つ間に礼が出てきてしまったら気まずいなと思ったが、それもない。
ビルを出て歩き出しても、追いかけてくる様子はなく、ただひたすら千春は駅に向かって歩いた。
(やっぱ、あの子ものすごくドライだな……)
追いかけてきてくれるかも知れない、と期待していたのかもしれない。そんなことを思ってしまう自分が面倒臭すぎて、千春はまた小さくため息をついた。
次回更新は4月16日(木)、11時の予定です。
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