【前回の記事を読む】帰ろうとすると「あと1回」と唇を奪われ…身体全体が熱くなるのがわかる。初めての感覚を、目を閉じてただ享受した。

訳アリな私でも、愛してくれますか

「あ、水瀬さん。さっきチャットで送ったんですけど──」

「あの、さ。ちょっと、いい?」

「……はい。なんですか?」

礼が首を傾げてこちらを見ている。

「実は人事の方から、別部署への異動を打診されてるんだよね、吉川君の」

「え? 俺のですか?」

「そう。元々は違う部署で採用予定だったじゃない? だから、そろそろそっちに行くのはどうかって」

「水瀬さんはなんて答えたんですか?」

礼の真剣な眼差しが突き刺さる。すぐにでも目をそらしたい気持ちをこらえた。

「私は、いいんじゃないかって答えたよ。そりゃそうでしょ、元は違う部署で採用されたんだから」

「そんなに俺を遠ざけたいですか?」

「そうね……その方がいいかもしれないね」

礼が何を言いたいのかわかっていても、つい強がりで、そんな言葉が出てしまう。本当はこのまま近くにいて欲しい、それでもここで年下相手にそんなことを言うのは、千春のプライドが許さなかった。

その千春の目をまっすぐに見つめたあと、ひと呼吸を置いてから礼が口を開く。

「わかりました。じゃあ、行きます。別の部署へ。話はそれだけですか?」

「そうだよ」

「そうですか。なら、さっきチャットで送った契約書だけ確認お願いします。お手すきの際でいいので」

それだけ言って礼は自分のデスクに戻ってしまった。その背中を見て、後悔が押し寄せる。

(私、なに公私混同してるんだろ……)

自分の情けなさに、思わずため息が漏れそうになるのを押し止めるしかなかった。