【前回の記事を読む】「一杯に初恋の味がある」国民的清飲料の有名なキャッチコピーを創作した驪城卓爾(こまき たくじ)への追悼文

驪城君を懐(おも)う

誠に君の人格は教育者として模範とするに足るものであった。我が校が今日些(いささ)かでも其の歴史の上に見るべきものが有るとするならば、そは実に君に負う所決して少なからざることを信ずるに躊躇しない。君の全生涯の大部分は全く本校の為(ため)に献げられたと称しても過言ではなかろう。

しかも君の蘊蓄と熱誠とは今後の活動努力に多大の期待と信頼とを懸けていたのであった。嗚呼(ああ)その君は今や突如として我等の追慕を後に、早や他界の人となったのである。

更に君を懐う時深く感ずることは、君が文芸の士としても豊富な天分を備えていたことである。君が育英の余暇を以て折々物した創作は、歌に文に其の天分の豊かさを示している。

しかも謙譲な君は、更に幾多の作品を篋底(きょうてい)に蔵しながら、敢(あ)えて世に発表しようとはしなかった。察するに君の胸中には尚より以上に深く大なる構想を蔵して、やがて大いに表現せらるべき日の有ることを自ら期していたことであろう。

天若(も)し君に十分の寿を与えて、其の天分を存分に発揮せしめたならば、必ずやこの方面に随分目覚ましい活躍を期待することが出来たでもあろう。否(いな)君が人生の首途(かどで)に於いて育英の道を選ばず、寧(むし)ろ直ちに文壇の人たらんと志していたならば、必ずや此の方面に於いても名を成すに到ったであろうとさえ思わるるのである。

今君を追慕する人々の手によって、其の遺稿の出版せらるることは、誠に君を偲ぶに絶好の企てであることを思い、今更の如く哀悼の情に堪えず、一言を付して此の挙を賛し、併せて君の冥福を祈る次第である。

三宮 元勝