俳句・短歌 歌集 四季 2020.09.30 歌集「忘らえなくに」より三首 歌集 忘らえなくに 【第9回】 松下 正樹 四季がある日本は移ろいやすいのだろうか。 行き交う人々の心や街の景色は千変万化で、過去はさらに記憶の彼方へ押しやられてしまっているかのよう。 だが、南の島々には、あの戦争を経ても変わらぬ日本の心が残されていた。 過去と現在、時間の結び目を探しながら、日本古来の清き明き心を見つける旅の歌短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 立春をすぎてぬくとき雨ふりぬ 石路の芽はあかく萌えたつ きさらぎの風荒るる野にはこべらの 白くむらがり花を持ちたり *きさらぎ 陰暦の二月、太陽暦では三月。 ひらひらと惑ひきたりし紋白蝶 庭の花菜の花粉にまみる
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『ヒスイ継承』 【新連載】 守門 和夫 発明好きなおじいちゃん。いつも失敗してるけど今回はなにやらいつもとは違っていて…!? 秋が深まり、イチョウの葉が輝くような黄色になった、ある土曜日の朝のことだ。川越市のカルガモ小学校三年生の星野波奈(ほしのはな)は、電話の呼び出し音で目が覚めた。時計を見ると、まだ六時になっていない。だれも出ない。しかたないので一階に下りて、居間の電話の受話器を取り上げた。「波奈、すごいよ! 眠っているうちに、本が読めてしまう装置を発明したよ」「ほんと?」「今すぐ、そっちへ行くよ」波奈が返事をしな…