俳句・短歌 歌集 四季 2020.09.23 歌集「忘らえなくに」より三首 歌集 忘らえなくに 【第8回】 松下 正樹 四季がある日本は移ろいやすいのだろうか。 行き交う人々の心や街の景色は千変万化で、過去はさらに記憶の彼方へ押しやられてしまっているかのよう。 だが、南の島々には、あの戦争を経ても変わらぬ日本の心が残されていた。 過去と現在、時間の結び目を探しながら、日本古来の清き明き心を見つける旅の歌短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 ゆるやかな流れにあらがふぼらの群れ 肌へ光らせ水にあそべり 街川の藻草に咲ける白き花 ながるる水に圧されて震ふ 満月の大潮の夜街川は さかしさに流れ鯉さかのぼる *白子川 東京都板橋区を流れる、荒川の支流。
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『おーい、村長さん』 【第9回】 浅野 トシユキ 自分の知らない兄の姿。兄は何を感じて村長の話を受けたのだろう…。 兄は村に住み始めると、地元の人たちと親しく交流をするようになる。林業の人、農家の人、キャンプ場の人やバスの運転手さんとも友達になった。村祭りや花火大会にも進んで参加した。とにかく村の暮らしを楽しみ、村の人たちと仲よくなって皆さんから信頼されるようになっていた。前回の村長選挙のとき、候補者がいないという話になった。以前の村長は病気で亡くなり適任の候補が全くいないという状況だった。村にとっては一大事…