俳句・短歌 歌集 四季 2020.09.16 歌集「忘らえなくに」より三首 歌集 忘らえなくに 【第7回】 松下 正樹 四季がある日本は移ろいやすいのだろうか。 行き交う人々の心や街の景色は千変万化で、過去はさらに記憶の彼方へ押しやられてしまっているかのよう。 だが、南の島々には、あの戦争を経ても変わらぬ日本の心が残されていた。 過去と現在、時間の結び目を探しながら、日本古来の清き明き心を見つける旅の歌短歌集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 牛丼にせわしく箸はうごけども 個食にあれば語ることなし 東京の夜のにぎはひ冷めやらず 行き交う人の𠮷野家へ寄る 街川を発つ日ま近き鴨ならん つばさを打ちて水しぶきあぐ
小説 『約束のアンブレラ』 【新連載】 由野 寿和 ずぶ濡れのまま仁王立ちしている少女――「しずく」…今にも消えそうな声でそう少女は言った 二〇〇三年の年末。猛烈な雨が、差しているビニール傘を氷のように叩きつけている。静岡県藤市にある藤山を局地的な大雨が襲っていた。静岡県警の鳥谷(とりたに)は手に持っていた新聞を口でくわえると、慌ててしゃがみ込んだ。泥でぬかるんだ足元に、大量の水が靴を侵食する感覚が襲った。「こんな雨の中、こんなところにいたら風邪をひいてしまう。ここは危険な場所だ。お嬢さん、名前は?」少女はずぶ濡れのままその場に仁王…
小説 『上海の白い雲』 【第11回】 河原 城 1年ぶりの再会に喜んでいる様子はなく...... 帰り道、何に怒っているのか、何が悔しいのか分からないまま大粒の涙が頬を伝った。 《小詩(シャオシ)、天国で楽しく健やかにいることを祈っています。あなたのことを忘れることができません。鞍山であなたの入っている納骨堂で祈りを捧げました。母亲(ムーチン)も一緒でした。母亲(ムーチン)の実家に二日間泊めて貰いました。母亲(ムーチン)と一つのベッドで寝ました。昔、母亲(ムーチン)のお父さんが使っていたベッドだそうです。あなたと住んでいた家は、取り壊されていて、瓦礫の山になっていました…