【前回の記事を読む】留置所で悲惨な死を遂げた元刑事…“電子レンジでチン”されたように顔面は膨張し、両目とも焼き魚のように真っ白にされ…
サイコ3――奇跡の手
「本当に奇妙だな。まるで電子レンジでチンしたみたいだ」
殺人犯捜査第1係長の小川が羽牟の遺体の写真をデスクに投げ出して言った。
「電子レンジ……」
写真を見つめながら鍬下が呟いた。
「たった5分の間でどうやったら人間をゆでダコにできるんだ? 見当もつかん」
「まさかマイクロ波……」
「あ?」
「電子レンジというのはマイクロ波加熱を応用した家電製品です。それなら人間をゆでダコにすることも可能です」
「おまえ、何言ってんだ? あの居室がでっかい電子レンジだとでもいうつもりか?」
「いえ、外からやってきたのかもしれません」
「え?」
「ハバナ症候群というのをご存じでしょうか。2016年11月、キューバのハバナにあるアメリカ大使館の24人以上のスタッフが原因不明のめまい、疲労感、頭痛、吐き気等の症状を呈し、休職や退職に追い込まれました。
それ以外にも世界各国で外交官やCIA職員などが同様の症状を呈し、原因を調べたところ、マイクロ波による攻撃の可能性が指摘されたんです」
「知ってるよ。俺だってそのくらい。でも、それはただめまいとか頭痛がするだけだろ。羽牟はゆでダコにされたんだぞ」
「最近では標的の人間を44度まで加熱する兵器が開発されています。長時間当てれば火傷を負わせることは可能です。ひょっとしたら、それよりも高出力のマイクロ波が使用されたのかも」
「あのさ、もしそうだとして、誰が、何のために一介の刑事をそんな大掛かりな兵器で殺したって言うんだ?」
「羽牟さんは古葉月渚(こばるな)という名前を書き残していました。ひょっとして、奇跡の少女事件の少女の本名じゃないでしょうか?
あの事件はハムの管轄になっていて謎が多い事件です。羽牟さんは以前この事件を調べようとしたと言っていました。羽牟さんは何かの事実を知ってしまったために暗殺されてしまったんじゃないでしょうか?」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。話が飛躍し過ぎて何が何だか分からん。奇跡の少女事件? 確かに昔そういうのがあったな。でもあれはTV局が創り出したやらせだったんじゃないか? そういう話になっていつの間にか消えていったはず。で、何でそれを羽牟が調べてたんだ?」
「さあ、それは。係長は古葉月渚と言う名前に聞き覚えはないですか?」
「古葉月渚……聞いたことあるような、ないような……」
その時携帯が鳴り、小川は記憶を探るのを中断した。
「はい、小川です。はい、えっ……あ、そうですか。分かりました」
「思い出しましたか?」
小川が電話を切るとすぐに鍬下が催促した。
「いや。それとな、この事件はもう俺たちの仕事じゃなくなった」
「どういうことですか?」
鍬下が驚いて訊いた。
「羽牟の件はハムが……公安が引き継ぐってよ。これで俺たちは妙な事件に頭を惑わせる必要もなくなったわけだ」
「何でハムが……やっぱりこの事件は怪しいですよ」
「怪しかろうと怪しくなかろうと、俺たちには関係ない。鍬下、おまえ、余計な首突っ込むんじゃねえぞ」
そう言って小川は立ち去った。鍬下は羽牟の遺体の写真を見つめた。