4月中旬だというのに夕方の空には灰色の雲がかかり、風も強く、おまけに霰まで降って来て冷え込んできた。麻利衣が自分の部屋で唐辛子をかけたご飯を食べながら携帯で動画サイトを見ていると、玄関のチャイムが鳴った。

家賃の催促なら、給料日まで待ってくれるよう頼み込もうと思いながらドアを開けると、そこには懐かしい母の顔があった。

「え、何、来るんだったら連絡してよ」

「驚かしてやろうと思ってね。ね、ちょっとあんた、ちゃんと掃除してる? 何かカビ臭いわよ」

そう言うと母の小百合は部屋に上がり込んで、あちこち見回しながら詮索し始めた。

「あんた、それ、何食べてんの。ちゃんと料理してる?」

「してるって。もう、あちこち嗅ぎ回るのやめてよ」

「家から食材送っておいたから、もうすぐ着くはずよ。そしたら私がもっと栄養のあるものを作ってあげるから」

「ちょっと待って、ひょっとしてうちに泊まるつもり?」

「そりゃそうでしょ。ホテルに泊まれるほどうちはお金持ちじゃないんだから。1週間くらいかな」

「1週間? 観光でもするつもり?」

「ああ、それもいいわね。ねえ、東京を案内してちょうだいよ。どうせ国試も落ちて、暇なんでしょ」

「暇じゃないし。私ね、実は就職したの」

「就職? あんなに医師になりたがっていたのに諦めたの?」

「まだ完全に諦めたわけではないんだけどね、ほら、東京じゃ生活費も馬鹿にならないでしょ。バイトだけじゃ食っていくのもままならないのよ。だから働きながら合間で勉強しようかなと思って」

小百合の表情がやや暗くなった。

「ごめんね。私が少しでも仕送りできればこんなに苦労させずに済んだのに」

「いやだ、気にしないでよ。お母さんだって、自分の生活で手一杯でしょ。それにね、今度の就職先、30万も給料くれるのよ。初任給さえ入れば、お母さんにだってご馳走を奢ってあげられるんだけど」

「30万? 医学部を卒業していると、医者になれなくてもそんなお給料もらえるのね。どんな会社なの?」

「あー、調査会社」

「調査? 何を調査するの?」

「いろいろ」

「ふーん。ねえ、私、ご挨拶に行かなくていいかな?」

「は? 美瑛の居酒屋でバイトしてたのとはわけが違うんだからさ。会社に母親がついてきたらいい笑い者だよ。絶対やめてよね」

「分かった、分かった。お布団どこ? まさかカビが生えてないでしょうね」

小百合は押し入れを開けて布団を下ろした。

次回更新は2月28日(土)、21時の予定です。

 

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