【前回記事を読む】愛弟子は一人前の料理人になるはずだった…しかしある日を境に、昏睡状態に……「お袋さんに顔向けできない」
Case: A 夫の選択:結
翌日、朝からあくびがとまらなかったため、コーヒーでも飲もうと給湯室へ向かうと課長がいた。難しい表情を浮かべながら飲むコーヒーは味気なさそうに見える。
「おぉ、キミか。なんだ? 眠そうだな」
「おはようございます。どこかの誰かさんに色々付きあわされて疲れてるんですよ」
「ハハッ、悪い悪い。気を付けるよ」
「それよりどうしたんですか? 難しい顔してますけど」
「……キミから見た俺は冷たそうに見えるか?」
「え、なんです急に?」
「依頼主の心に寄り添うようなこともせず、淡々と仕事をこなす姿は冷酷に映るか?」
課長は葵のほうを向かず、コーヒーに向かって話し掛けているようだ。液体が瞳に反射して、ただでさえ淀んでいる目がより一層陰惨に見える。
「俺だって昔はもう少し人情味があったんだよ」
「どんな感じだったんですか? 昔の課長って」
「少し昔話に付き合ってくれるか」
「それは構いませんが……」
「俺が新米の死神だったころ……だからちょうど十年前の冬になる。ちょうど今と同じ時期だった。俺はそこである年配の男性と会った」
「その人が依頼主だった、とかですか?」
「察しがいいな」
そして課長はこれから授業に入りますと言わんばかりに当時のことを語り始めた。
Case:B 元・医者の選択
二〇〇九年 師走
とある平日の昼下がり。無数の鯉が泳ぐ池に面した縁側で二人の老人が碁盤を挟んで向かい合っている。真冬ではあるがこの日は快晴で気温が高く、昔ながらの火鉢を傍らに置いていることもあって心地良さからウトウトとんでしまいそうだ。
「で、なんでワシはお前とこうして縁側でオセロに興じてるんだ。普通こういうのは囲碁か将棋だろうが」
そう切り出した男の名は。御歳八十六歳とは思えないとした男性で、真っ白に染め上がった毛量の多い頭髪、境目が分からないほどもみあげと自然に繋がっているあご髭が見る者に威圧感を与え、若い頃はさぞや精悍な青年だっただろうと思わせる風貌だ。