翌朝、朝もやが森を覆っていた。鳥の囀(さえず)りが心地よく、青々とした木々の匂いが炭置き小屋の中まで漂ってきた。義近は眠たい目をこすり、あくびをした。
温(ぬく)い布団から顔だけ出して戸口を見やると、もう又五郎が身支度を整えて立っていた。
「起きたか。それじゃおれはお球磨ばあさんの家に行ってくる」又五郎は一瞥すると、薪と藁を携えて森の中に消えていった。
義近は寝ぼけ眼(まなこ)でぼんやりとその後ろ姿を見やった。肝心の箱のことを言う間もなかった。(まあ、あのおいさんを信じてみるか──)義近はまた温い布団に顔をうずめた。
森は緑深かった。杉木立は幾重にも重なり、朝だというのに陽ざしがあまり届かないほど鬱蒼としていた。
苔むした石の段を越えていくと、一本道の先にぽつんと茅葺(かやぶき)屋根の一軒家が見えた。
煙突から煙が立ち上(のぼ)り煮物の匂いが漂ってきた。お球磨ばあさんの家である。
木造ではあるが、かなり年季の入った建屋で小屋といっても差し支えないような質素な造りである。
軒先には山菜などがぶら下がっており、露に濡れしっとりとして朝日に光っていた。