「箱? あの細長い箱か? 箱はここにはない」

「え! ここには、ない? じゃ、どこにある?」

「こんなあばら家には似つかわしくねえんで、お球磨ばあさんの家に預けてある」

「お球磨ばあさん家は、こっから遠いのか?」

「だいたい四町(ちょう)(四百三十メートル)程だが、そんなに大事なものか?」

「ああ、命よりも大事だ。すぐにでも取りに行きてえ」

「それなら明日、おれはお球磨ばあさんに薪や藁を届けるんで、ついでに取りに行ってやるぞ。おまえはその身体では無理だ。安静にして寝てろ」

大事な箱がとりあえず無事であるということがわかり、義近は安堵した。もちろん中身も無事であることを祈った。

「とにかく早く傷を治すことが大事だ。まず腹いっぱいに食わないと治らねえぞ。この山の滋養豊富な汁をたらふく食え」

山でとれたての茸(きのこ)や山芋、山菜が入った具だくさんの鍋であった。義近は久しぶりに腹いっぱいになるほど平らげた。