【前回の記事を読む】「助けてくれたのか?」と聞くと、男は草鞋を編みながら一瞥し「助けるも何も、ひどい傷を負っていたから死んでいるかと思って…」
第二章 北斗七星舎(ほくとしちせいしゃ)
粗末な戸板を叩くと老婆が顔を出した。
「おや、又さん、今日はえらい早いね。でもちょうどよかったよ、薪が切れたところでね」かなりの高齢だが、その皺に刻まれた笑顔から温厚さが伝わってきた。
「お球磨ばあさん、朝早くからすまない。薪と藁は少し多めに持ってきたぜ。これだけあればしばらくは足りると思うんだが」又五郎は肩から薪と藁を下した。
「それでようやく、あの坊主が目を覚ましたんだ。傷は少しずつだが治ってきてるようで。昨日は山鍋をたらふく平らげたぜ」
「おや、そうかい。そりゃまんず良かったねえ。あんたの看病が良かったんだね。まんず、良かったあ」
お球磨ばあさんは手を叩いて喜んだ。
いつも左手に付けている、木彫りで出来た数珠のような飾りがシャンシャンと音を立てた。
木彫りは鯱(しゃち)のような形状で、精巧な細工を施してある。これは亡き夫の形見であり、腕のいい杣人職人の最後の仕事でもあったようである。お球磨ばあさんの夫は名の知れた杣人で、又五郎たち地元の杣人で知らない者はいなかった。
「しかし本当に不思議だね。又さんも川で生き倒れていたんだからさあ。おらが見つけたときは虫の息だったわね。この童(わらし)っ子とおんなじだわさ。なんかご縁を感じるのはおらだけかなあ」
そう言いながらお球磨ばあさんは漬物や山菜の束を朴草(ほうそう)で巻き、又五郎に無造作に手渡した。
「ところで、あの坊主といっしょに転がっていた箱はあるかい?」
「ああ、あの細長い箱かい? たしか仏間の前にあったっけな。ちょっと待っておくれ」
しばらくして、お球磨ばあさんが怪訝(けげん)な顔で箱を持って出てきた。箱を下から覗いたり、横から透かしてみたりしている。