「この箱、おまえさんから預かった時はたしか白い箱だったと思うんだけどさあ。しばらく仏間の前に置いておいたら、黒い箱になっちまってんだ。こりゃどういうことだべ」
水分を含んでいた箱が乾燥し、黒い色に変色したとは思えない。たしかに又五郎が見つけたとき、箱は白かった。それがまるで焦げたかのように黒くなっている。まるで中身のものが発火して、熱を帯びているかのように。
そして又五郎が箱を手にしたとき、その双眸(そうぼう)が光った──
(これは……!)
お球磨ばあさんに丁重に礼をいうと又五郎は箱を背負い、もと来た道を歩き始めた。
しばらく一町程歩くと、前方から声がする。子どもの声だ。
「おーーい、又五郎さん。箱は無事だったかーーい」
義近が待っていられずに又五郎を迎えに来ていたようだ。一目散にこちらに駆けてきていた。又五郎はやれやれという顔で苦笑した。
そのとき又五郎の後ろから、生温(なまあたた)かい風とさわさわと木の葉が擦(こす)れる音が聞こえた。
又五郎の表情が変わった。
「坊主、動くんじゃねぇ! そこで止まれ!」
又五郎が大声を上げた瞬間、義近の足元に、ビュッ、ビュッと鉄の矢が飛んできて地面に突き刺さった。目にも止まらぬ鉄矢は瞬時に四本も突き刺さっていた。
「ちっ、外しちまった。勘のいい男だね。まあいい、箱が見つかったんだからな」
背後の樹上に深緋色の脛巾が目に入った。くノ一・蘇摩利が弩をこちらに向けて立っていた。
義近は思わず『あっ!』と声を上げた。あれだけ苦しめられた強敵のくノ一が、また眼前に現れたことに衝撃と恐怖を覚えた。
(こいつら追ってきてたんだ! どうする。又五郎さんは杣人で腰に小斧しか持ってねえ。しかもおいらはいま丸腰で武器は何も持ってやしねえぞ。どうやって闘う?)
「小僧よく生きてたな、運の強い奴だ。しかし本当に手の焼ける小童(こわっぱ)たちだね。箱の在(あ)り処(か)さえ言えばいいものを、あのババア歯向(はむ)かってきたんで踏んづけたら死んじまいやがった」
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